バラの雫


母の住んだ家には、小さなバラの庭がある。
食の細くなった彼女を喜ばせるために
香りのバラを植え続けた。

梅雨のさなか、摘みとる花たちは透きとおった雫をまとう。
薬草の家は、ひとときローズガーデン。
ぽとりとひとつ、水滴が落ちる。
かぐわしきパフューム。

萩尾エリ子 / simples