香り仄かに


束ねたのは門出の花。
さてと庭を見渡せば、スノードロップ、ラベンダーの葉とタイムの枝のみ。
春を待つ私たちのもとには、ときおり心尽くしの花が届く。
その一輪に、マーケットで見つけた赤い新芽のユーカリを合わせる。

ふいに暖かくなって、林の中の小さな花たちが顔を出す。
春の精の杖ひと振りと、ささやかな想いが作る花束は
どこにもない、たったひとつのもの。

萩尾エリ子 / simples