風を運ぶ

久しぶりの旅。バルト海を臨む小さな国は、木々を愛し、薬草を慈しむ。
旧市街には、クリーム色の花をたわわにつけたリンデンバウムの大木がそこかしこ。
柔らかな甘い香りに、これまで訪れたヨーロッパの初夏が甦る。

夕暮れに花を摘んだ。野の矢車草、アカツメクサ、ヒナギクも加えよう。
今、この時と光と風を混ぜあわせて、私へのおみやげ。

日に日に足どりも心も軽くなってゆく。
旅というのは、類い希な妙薬とあらためて思う。

萩尾エリ子 / simples