菫の花咲く頃


菫の砂糖漬けを皇妃エリーザベトは愛した。
美しい色と香りを閉じこめた甘い花は、ウィーンの古い菓子店に今も並ぶ。
ロンドンのペンハリガンという古い香水店では、薄水色の“Violetta”が誰かを待っている。

私達も手掌の花束にして、シロップに漬けて、その仄かな香りと姿を愛でる。
緑が深くなれば、菫たちはたくさんの種を抱き、次の春に夢をつなぐ。

萩尾エリ子 / simples