ひと滴、ひと光


一年の光が、スピリッツ・シロップに溶ける。
ウスベニアオイの花は甘い水にうっすらと紅をさし、
異国のバニラは眠りから醒める。

数滴の、あるいは盃に少し。
閉じこめた季節は放たれ、静かな香りの旋律が流れる。
ニオイスミレやキバナノクリンザクラを想う。
一日ごとに夜明けが早くなる。

年ごとに愛しいものが増えた。
それは、気がつけばいつも傍らにあったもの。

萩尾エリ子 / simples