風が吹いたら


幼い頃、童話の世界の森に憧れた。
椿の茂みの下で、想像をふくらませた。
今はもう木の下にもぐらなくても、森は近くにある。
とりわけ小さな森が。

裏庭の木々は育ち、木陰をつくり、落ち葉を積もらせ、静かな香りを放つ。
名も知らぬきのこたちが、さわさわと語らう。
青い実がポトンと落ちた。
ここはアリスも又三郎もやってくる。

萩尾エリ子 / simples