つややかな黒猫は、毎日のように庭の小道を歩いた。
18年の生涯の間に樹々は育ち、涼しい木陰は彼の大好きな場所になった。
巡るたくさんの季節を味わって、たくさんの冒険をして、怪我もした。
お気に入りの私の机の上で、野の草に囲まれ、未明に逝った。
前日までゆらゆらと庭を歩き、風を嗅いだ。
小さな口の中のガンは、彼の生き方を妨げはしなかった。
私の愛した猫は、緑色の瞳でいつも楽しいことを探していた。
在宅ホスピス医・内藤いづみさんから本が届いた。
『最高に幸せな生き方と死の迎え方』。
願わくは私もその時まで、小さな緑の小道を歩くように生きたいと思う。
萩尾エリ子 / simples