いっぷく、口福

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草の葉、木の葉、花々を静かにお湯で出し、茶碗にそそぐ。
茶の葉が日常となる前に、続いてきた人の所作。

羊の糸は手首を包み、るり子さんの器はすっぽりの手の中。
掌中の暖はのどをとおり、身の内に広がる静かな日光浴。

余分はいらない。たっぷりといっぷく。
憂いは晴れ、心は澄み、ほーっと息を吐く。

今日は雨。
球根たちよ、木の芽たちよ、春は少し先。
慌てないで、いつも通りにゆっくりと。

萩尾エリ子 / simples