手は、ゆるやかにするりと香油をとり出し、
温もりと香りをひとつにして、人に触れる。
その人の心に、ほんのりと灯がともされ、小さな氷が溶けてゆく。
これは「雪解け水」という名の、トリートメントオイルを入れる美しい器。
葉音-はのん-という、光差す林の中の工房で作っていただきました。
香りの滴は風のように芳しい衣をかけ、温かく包みます。
心ある人には易く、また奥深い技。
軒のつららからも、ポトポトと水滴が落ちます。
季節は密やかに、春への準備をはじめました。
萩尾エリ子 / simples