まだ肌寒さの残るこの季節、草たちは旺盛に繁ることを控えて、
しっとりとした緑を生みだします。
忘れな草の青が広がり、スウィートウッドラフが白い花をつける庭。
花束を作ります。小さな小さな花束を。
名残りの水仙、スウィートシスリは、柔らかく甘く、
シロツメクサやバニラグラスは野の香りと風情、デイジーは少女のよう。
青々とした果実の香りの黒スグリの葉や、露に濡れたハゴロモ草も忘れずに。
病院を転々と4年、心も身体も疲れ切った方に、花束を差し上げました。
庭に降りたつには、もう少しの力と勇気がいる方に、精気をたっぷりと含んだこの緑たちは、私たちがお届けできる、せめてもの「おくすり」でした。
「どうしてこの花たちは、心地よくて長持ちなの」と、
彼女は毎日、水を換え、慈しみました。
たどりついた病院を出る日まで、ささやかな庭の恵みは、
時を見計らって、届けられました。
萩尾エリ子 / simples