旅をした南ドイツの都市の市場には、かご一杯のクランベリーとそのコンポートの瓶詰めが並んでいました。
生の実は甘酸っぱく野の味。
“WALD-PREISELBEEREN”、森で摘んだものでしょうか。
日本の食材とその加工品の豊富さには目を見張るものの、土の香りのする食材と喜びの溢れた素朴な売り方は、まだまだ少なく心細い気もします。
私の身のまわりでは、ひと雨ごとにきのこが育ち、紅玉はまるまると赤く、農家の朝取り野菜が店頭に並びます。
都市のそこここに、エネルギーに満ちた“市”が欲しいと思います。
全身で味わうことのできる食材を持つマーケットは、今の豊かさの質を少しずつふくよかに変えてゆくに違いないのです。
この林に生きる小動物の冬の糧、山の栗がぽとりと落ちました。
萩尾エリ子 / simples