細長いグラスに入った温かで甘いミントティは、渇いたのどに浸みこみました。
たっぷりの砂糖とたっぷりの緑の葉。モロッコでの日常の一服です。
熱い光の中を訪れた畑で、このミントは愛しげに‘ナナ’と呼ばれていました。
布袋を引きずるほどの青草を背負い、裸足で歩く人、一本の鎌でまばらに育った麦を刈る人、アトラス山脈の麓の村で暮らす人の、これも日常のようです。
私たちは何でも持ちすぎていて、その煩雑さ、重さに心乱され、一服の緑のお茶の豊かささえも忘れてしまう。
ペットボトルからではない、湯気のたつ心配りのお茶を用意することから、文化は伝えられ育つものと、ふと思うのです。
萩尾エリ子 / simples